145.悪いものが、来ませんように/芦沢央
この子のもとに、幸せばかりが待っていますように。
悪いものが、来ませんように。(p.12)
二人の女性の語りによって、子育てや家族関係が発端となる鬱憤が露わになっていくにつれ、恐ろしい結末を予感させていく物語が綴られる、芦沢央の長編小説。
引っ越しやらで忙しく、全く本を読めていなかったのでリスタート。
その一発目となるこの本で、ものの見事に騙された。
不妊と夫の浮気という悩みを抱えながらも、助産院で粛々と働き続ける生活を送る紗英にとって、唯一心を許せる存在であったのが、子どもの頃から親しい存在であった奈津子だった。
しかし、その奈津子も社会で働くという経験のないまま母親となったことから、社会からの隔絶を肌みに感じながら、育児という先の見えない日々を送っていた。
仕事と育児。その二つにおいて、まさに正反対とも思える状況にありながらも仲睦まじい関係を保っていた彼女たちであったが、一人のある行動が引き金となり、やがて恐ろしい事件へと繋がってしまう。
芦沢央さんの作品を読んだのは初めてだったのだけど、登場人物たちの些細な言動に潜む不気味さや刺々しさ、そして、直接的ではないのに、全身に絡み付いてくるような拒絶感を感じる文章表現の上手さが際立っていた。
また、物語のテーマともなっている夫婦間・親子間の関係は、決して正解が無いからこそ、誰もが思い悩む問題でもある。各方面が納得するような関係など存在せず、今が上手く進んでいたとしても、将来かけて正しいと言い切れる確証もない。
そして自分は、物語に登場する彼女たちが、決して文中で第三者に噂されているような狂気に塗れているわけではなくて、誰もが気付かぬうちに成りうる姿だと思ってしまった。
彼女たちの狂気への恐怖ではなくて、
一貫した行動に違和感を感じさせない恐怖。
ただ、何よりもこの物語に隠された罠を見破れなったのが悔しい。
きっと読み返すと、さらに悔しさが増すんだろうな。
では次回。