カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「おやすみ、東京/吉田篤弘」の感想と紹介

195.おやすみ、東京/吉田篤弘

 

人と人がどんな風につながってゆくかは、様々な理由があり、その理由となる道筋やきっかけが、この街には無数にある。このまちでこの仕事をしていて、いちばん感じるのはそれである。(p.124-125)

 

思い思いの悩みや淋しさを抱えた人々が、深夜の東京の街ですれ違いながら、誰にも言わなかった記憶を静かに分かち合っていく、吉田篤弘の長編小説。

 

緩やかに世界観に没入しながら、ぼんやりとレイトショーで映画を眺めている時間みたいな、心地よい読書体験だった。

 

深夜一時、東京。

 

夜更け過ぎの街の中で、ある人物は映画会社で「調達屋」として働く最中、撮影に使う果物のびわが見つからず途方に暮れ、またある人物は電話のオペレーターとして世の悩める人達からの言葉を聞き、夜のタクシー運転手は彼女たちを拾って深夜の道路をひた走る。

 

物語に登場する人物たちは、誰も彼もが知り合いな訳ではないのに、様々な場面でそれぞれが引き寄せられるように出会ったかと思えば、肝心な時にその場所に居なかったりもして、絶妙なタイミングの噛み合わなさが面白かった。

 

世界観も独特で、別々の物語の主人公たちが偶然、同じ街に降りたったかのような多種多様で個性光る人々が入り乱れると、時折、ぎこちなさを感じさせる会話や出会いがあり、それがまた都会の人間関係を象徴しているようだった。

 

それでも、様々な人や物が放り込まれたブラックボックスのような夜の底が広がる街で、人と人とが出会って細く拙い糸が繋がり始めると、自然と違和感も解きほぐされていく。

 

東京と言う街に住んでみて、改めて不思議な街だなと思う。
果てしなく広大に感じる時もあれば、案外、狭くて窮屈に感じる時もある。常に無数の人々が押し寄せて煩わしいと感じる時もあれば、不意に寂しさが目の前を通り過ぎることもある。

 

孤独な時は人に会いたくなるけれど、人と会うのにもあれこれと理由をつけたくなるのが人というものなので、きっかけを探すのに無意味に苦労してしまうんだなと、悩める登場人物たちの姿を見て自戒する。

 

では次回。