216.スモールワールズ/一穂ミチ
退屈な教科書の文章みたいに単純な情報として丸飲みし、解釈も深読みも加えないでほしい。自分の人生を、物語みたいに味わわれたくない。(p.302)
様々な人間関係の合間で揺れる人々が生活する小さな世界で、もどかしさを抱えながらも懸命に生きるものたちの7つの物語が綴られる、一穂ミチの短編小説。
夫婦、親子、姉弟、先輩と後輩。並々ならぬ繋がりを持っている彼らが胸に抱く想いは、誰かに理解されたいわけではないのに、心のうちに閉まっておくには耐えがたい歪なものだった。
7つの物語で描かれる「小さな世界」は、赤の他人からしたらちっぽけで、とりとめのないことなのかもしれない
でも、小さな世界だからこそ、自分ごとでいられる。
手の届く場所だから、手を伸ばしていられる。
彼らが発する言葉が生活圏で育んだ心を掠めていくたびに、そう思わされた。
また、一穂ミチさんが綴る文章を読んでいると、矢継ぎ早に迫ってくる言葉に飲み込まれそうになる瞬間がある。息をとめていることに気づかないほど滑らかに。
それはきっと、どこかで感じたことのある感情を見透かされたような、誰にも打ち明けることのできなかった言葉を見つけてくれたような、半端でどっちつかずな想いを投げかえしてくれるからだろう。
自分自身も、この「小さな世界」の中にいる。
一穂ミチさんが覗いてくれるのを待ち侘びながら。
では次回。