131.鳩の撃退法/佐藤正午
「でもそれだったら」と男はつづけた。
「小説家は別の場所でふたりを出会わせるべきだろうな」(p.48)
元小説家の男が自らの記憶を元にした小説を軸に、数々のトラブルや騒動が織り込まれ、思わぬ物語が浮かび上がる、佐藤正午の長編小説。
新幹線の車内広告でやたらと目に入ってきて、興味を持った作品。
妙に語呂がいいタイトルで、つい口に出したくなる。
かつては直木賞も受賞したことがある小説家の津田伸一は、今では女の子の送迎ドライバーとして夜の街をあちこち駆け回る生活を送っていた。
しかし、とある喫茶店で出会った見知らぬ男との本の貸し借りの約束をきっかけに、彼の周囲ではおかしな出来事や謎の人物たちがうごめき始める。
一家の失踪、偽札騒ぎ、忍び寄る裏社会の影。非日常な出来事たちは小説家の手によって、さらに輪郭を無くし、現実と虚構との境目を朧げにしていく。
それぞれの時系列は複雑に絡まり、描かれている一幕はどこまでが切り取られて捻じ曲げられたものか、読者には判断がつかない。
例えるなら、机をびっしりと埋め尽くすように無造作に貼られた付箋を、一枚ずつ剥がして読んでいるような気分にさせられた。
それでも、この上下巻で1000ページを超える物語を読み切ることができたのは、主人公を始めとする登場人物たちの噛み合ってるのか噛み合ってないのかよく分からない会話劇と、どこか気取った文章に惹かれてしまったからなんだろう。
それにしても、何だかしばらく主人公の喋り方が移ってしまいそうで嫌だな。
惹かれはしたけど、なりたくはないからな。
では次回。