85.この本を盗む者は/深緑野分
ああ、読まなければよかった!これだから本は嫌いなのに!(p.41)
本の街である読長町を舞台に、本の蒐集家であった祖父が建てた御倉館で起こる不思議な出来事を描いた、深緑野分の長編小説。
この作品も今年の本屋大賞候補にノミネートされた作品。
歴史ものが多い深緑さんの中では珍しいファンタジー寄りの作品になる。
本の街に生まれて、本好きの家系に育った主人公の深冬はもちろん本が好き、ではなくむしろ嫌いで、避けるように生きていた。
そんな主人公がある日、数多の本を所蔵している御倉館を訪れた際、本が盗まれたことがきっかけで本の物語の中に街ごと閉じ込められる呪いが発動してしまう。
姿を変えた街の中で、彼女は突如現れた真白と呼ばれる少女とともに、現実に戻るために物語の世界を駆け回る。
本をよく読む人なら誰でも一度は考えたことのあるのが
本の中の世界に入ってみたいという感情。
ただ本の世界では、物語によっては過酷な旅になったり、本を盗んだ泥棒を見つけなければいけなかったりと、決して楽しいことばかりではない。
鉄砲がうち乱れる物語もあれば、警察に追い回されることもあるのだ
うん、そこまでして入りたいとは思わない。我ながらわがままだな。
読み終わった後は、なんだか子どもの頃を思い出して懐かしくなった。
自由に自分の好きな本を手に取って、見たことのない世界を堪能する幸せは何にも代えられないもの。
それにしても、深緑野分さんの豊かな言葉の表現にはいつも感動を覚える。
たくさんの言葉が文章中に自然と散りばめられていて、読んでいて得した気分になる。
一朝一夕で語彙力増えたりしないかな。
しないか。
では次回。