84.52ヘルツのクジラたち
孤独の匂いは肌でも肉でもなく、心に滲みつくものなのだ 。(p.51)
家族との軋轢によって人生を狂わされ、誰も知らない場所に移り住むことになった女性と、その場所で出会った言葉を話せない少年との交流を描いた、町田そのこの長編小説。
2021年の本屋大賞候補にもノミネートされた本作。
選ばれたときから、読んでみたいと思っていた。
家族に愛情を注がれてこなかった主人公の貴瑚は、ある事件から自らの消息を絶ち、田舎の港町に移り住むことになった。
そんな場所で孤独に暮らす中で、母に虐待を受け言葉を発すことができなくなった
「ムシ」と呼ばれる少年と出会う。
そして、二人の出会いをきっかけに、少年の生い立ちや貴瑚の空白だった時間が少しづつ明かされていく。
人は誰しも愛を欲している。
そして、孤独であればあるほど、渇望していた愛に裏切られる瞬間が怖くなる。
特に印象的だったのは、人はみんな魂の番に出会うという言葉。
たくさんの愛を注いでくれる、たった一人の魂の番。
彼女らにとって、誰が魂の番になるかは分からない。
それでも二人はお互いに愛を、そして助けを求めて、巡りあった。
ラストシーンはそんな巡り会いが無ければ生まれなかった場面。
本当に出会えてよかった。泣きそうになった。
ちなみに、タイトルにもなっている52ヘルツのクジラは、他のクジラの周波数が聞き取れず、たくさんの仲間たちがいながらも自分の声が届かない孤独な存在だと言われている。
だからこそ、著書のタイトルが「52ヘルツのクジラ”たち”」となっていることは
ぐっと心に響いた。良いタイトルだなぁ。
では次回。