69.盤上の向日葵/柚木裕子
将棋の駒は美術品じゃねえ。眺めてるだけじゃ死んでいるのと同じよ。駒は指してこそ生きる。(下・p.94)
名匠の将棋駒を胸に抱いた白骨死体を巡り、二人組の刑事が駒の足取りを追うのと並行して、将棋に魅せられた少年の壮絶な生い立ちが語られる、柚希裕子の慟哭のミステリー。
2019年本屋大賞二位にもなった、柚希裕子の代表作となる。
文庫化されるのをこれでもかと待っていた。念願。
初代菊水月作の将棋駒と一緒に埋められた身元不明の遺体。
新米刑事の佐野とベテラン刑事の石破は、遺留品の将棋駒から事件解決の糸口を探るため、どのような経緯で駒がその場に行き着いたのかを調べるため全国に赴く。
時を同じくして、奨励会を経ず実業家から転身した異端の棋士・上条桂介は、若き天才棋士を相手に竜昇位を懸けたタイトル戦に挑もうとしていた。
刑事コンビが微かに残された資料を辿って、地道に探索を続けるのだけど、先の見えなすぎる捜査には読みながら同情してしまう。
ただただ果てしないように見えるけども、このような品割と呼ばれる捜査がどれだけ重要なことなのかが身に染みた。
数多の人たちの手に渡っては、その稀少さゆえに次々と持ち主を魅了し続ける初代菊水月の駒。やがて、その駒は驚くべき人物のもとにたどり着く。
そしてこの作品では、駒の行方を追う現代と並行して、将棋の世界に魅せられ、自らの人生と戦い続ける一人の少年の物語が綴られる。
母親の死、虐待、育児放棄。
そして、先生との出会いを通して募る、並々ならぬ将棋への想い。
重々たる枷を背負い続ける少年の運命は、賭け将棋を専門とする真剣師と呼ばれる男との出会いを境に大きくねじれ始める。
一応ミステリ―という分類をされているが、この作品はその枠組みに収まらない。
将棋という真剣勝負を通じて、一人の少年が自らの宿命と戦う壮絶な人生に、心を震わせられた。この感覚はなかなか味わえない。
上下巻でかなりの分量だったけど、一瞬で読み終えてしまった。
間違いなく今年一番の衝撃。
では次回。