70.さよならの言い方なんて知らない。/河野裕
「たいていの物事はフィクションから始まる。
そのフィクションに現実が出会う瞬間に、心の底から憧れる」(p.10)
行方知らずになった親友の手がかりを探すため、謎の手紙に誘われた主人公たちは「架見崎」と呼ばれる異世界の住人となり、能力を使った領土取りゲームに参加することになる河野裕の青春ファンタジー。
河野裕さんの作品と聞いて「サクラダリセット」を思い浮かべる人はきっと同世代。
主人公の香屋歩は親友のトーマの行方を追うため、同じく親友の秋穂とともに手紙に書かれたマンションを訪れると、架見崎と呼ばれる滅んだ街に飛ばされる。
そこでは最初に割り振られたポイントをもとに、得た能力を使ったチーム同士の領土を獲得するための戦争が行われていた。
決して超能力を使ったバトル物ではないので、チーム戦略や架見崎でのルールを利用した戦い方で主人公が敵と戦うのが面白い。結構頭を使う。
一生ループし続ける八月。終われば壊れたもの全てがリセットされる世界。
そして、なぜ「架見崎」は滅んだのか。
謎に包まれた世界で、臆病ゆえに困難を突破する戦略眼に優れた歩と常に冷静に振る舞う秋穂の二人は、急に異世界に飛ばされた割には現状を冷静に分析して敵チームと対峙していく。
普通こういう異世界ものだと主人公たちの反応は、現実に戻りたいがために奮闘したり、逆に異世界を謳歌して楽しんだりするもの。
だけど、この2人の反応はどちらでもなく淡々とこの世界を受け入れて適応していくという感じ。どの主人公たちとも違う。
でもそういう反応も、ある意味人間的なのかもしれないな。
シリーズ物なので続きの展開が気になるところ。
ところで、読み終わるまで表紙の女の子誰か分からなかった。お前か。