71.崩れる脳を抱きしめて/知念実希人
だから、私たちは慌てて新しい人生の意味を探すの。残された時間で、なにかを遺したい、なにか意味のあることがしたいってね。(p.104)
神奈川の病院へと実習で来ていた研修医の主人公と、脳に爆弾を抱えた女性患者の交流と、その彼女の死の謎を巡る知念実希人の恋愛ミステリ―。
研修医として療養型病院に実習で訪れた碓氷は、悪性腫瘍であるグリオブラストーマを患う女性ユカリの病室を訪れる。
最初は、彼女の心を見透かしたような言葉や自由奔放な振る舞いに翻弄されていた主人公だが、交流していくにしたがって次第に心を通わせていく。
それぞれが抱える心の闇をお互いに解きほぐすように、自然な関係が作られていく様子が丁寧に描かれていた。実際ここまで医者と患者側が仲良くなっていいのかは別として。
しかし、幸せな時間も束の間、研修を終えて地元の広島に戻った主人公のもとに彼女の死を伝える知らせが届く。
前半の二人の幸せな時間を見せられているからこそ、後半の展開は胸が苦しくなってしまう。読んでてどう転んでも良い結末を迎えられる気がしなかった。
それでも、彼女の死を巡る謎とそれまであった違和感や疑問が伏線となってしっかり結びついて、終盤のどんでん返しまでノンストップで進んでいく。
終末医療という現代でも賛否両論が分かれる問題に対して真摯に向き合いながら、恋愛ミステリ―としても深い余韻を残すラスト。
どうしてもこのようなジャンルの作品はやりきれない気持ちを抱いてしまうけど、読後はポジティブな気持ちを持てて良かった。
知念実希人さんの作品は初めてだったけど、優しい雰囲気の作品も多いしもっと読んでみたいところですね。
ちなみに登場するキャラでは、冴子が自分の想いを潜めて陰ながら主人公を支える姿が良かった。広島弁いいなぁ。
では次回。