カタコトニツイテ

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「儚い羊たちの祝宴/米澤穂信」の感想と紹介

83.儚い羊たちの祝宴/米澤穂信

 

バベルの会とは、幻想と現実とを混乱してしまう儚い者たちの聖域なのです。(p.288)

 

儚い羊たちの祝宴(新潮文庫)

儚い羊たちの祝宴(新潮文庫)

 

 夢想家のお嬢様たちが集う読書サークル「バベルの会」を軸に、五つの物語がそれぞれの章の語り手によって優雅に、そして無慈悲に語られる、米澤穂信の短編ミステリ―。

 

五つの物語はどれも高貴な一族や富豪が過ごす屋敷や別荘を舞台にして、そこで起きる不可解な出来事や事件が語り手の独白のような形式で展開される。

 

語り手となるのはその屋敷で暮らすお嬢様、そして彼女らに仕える使用人の娘

 

彼女らの日記のような柔らかい文章で語られる物語は、ときおり不穏さを感じさせるものの、彼女らの感情が垣間見えることもあって、ゆるやかに移ろっていく。

 

しかし、最後に明かされる真実はどれも、それまでの感傷が暗く沈んでいくような残酷な余韻を残していく。ともすれば、吐き出したくなるような余韻。

 

特に、少女が持つ邪悪さがむき出しになる瞬間は、まさに心がすっと冷え込むような感覚を味わうことが出来る。

 

米澤穂信さんが描くミステリーは影があるものが多いけども、この作品はその影さえも飲み込むような暗黒さを漂わせていて、著者の真骨頂を思い知ったような気がした。

 

それにしても、タイトルの意味を今一度考えるとぞっとしてしまうな。

 

では次回。