カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「生ける屍の死/山口雅也」の感想と紹介

188.生ける屍の死/山口雅也

 

「そうじゃ、死者が甦る奇妙な世界。わしらは、死者の甦りという前代未聞のやっかいな要素を推理の中に織り込んでいかねばならん」(p.440)

 

アメリカ全土で巻き起こる死者が蘇る怪奇現象によって、死者となっても生き返ってしまった主人公は、肉体が朽ちる前に一族を襲う殺人事件の真相を暴くため奔走する、山口雅也の長編ミステリ。

 

霊園経営者一族であるバーリィコーン家が暮らす「スマイリー霊園」では、領主であるスマイリーの遺産相続を巡って、互いを牽制し合う重苦しい雰囲気が流れていた。

 

そんなバーリィコーン家の中でも、遠い血縁者としてニューイングランドの片田舎にやってきたパンク少年のグリンは、辛気臭い家の雰囲気にうんざりとしながらも、同じ想いを抱いていたチェシャというおてんば少女とともに自由な生活を送っていた。

 

しかし、そんな最中にも、アメリカの各地では死者が相次いで蘇る現象が続出しており、その魔の手はやがて「スマイリー霊園」にまで及び始める。

 

殺されたにも関わらず動き出す死者たち、突如として消える遺体、さらには事件現場に残された不可解な状況によって、事態は混沌を極めていく。

 

あらすじだけ見ると悲劇的な世界にも思えるが、物語を読んでみるとところどころにコメディ要素が詰まっていて、登場人物たちもどこか呆れ気味にこの茶番劇の行方を見つめているように感じた。

 

死を強く想うが故に、生を強く実感する。
そんな思想が取り巻く世界で、死者が生者となって世界を闊歩する。

 

死者と生者の境目となっていたはずの「死」が意味をなさなくなったこの物語の舞台で、曖昧になっていく境界線を浮き彫りにする「死生観」に焦点を当てているところが印象的で面白かった。

 

また、これほど突飛な設定にも関わらず、ミステリとしての面白さを失わないように伏線を張り巡らしながら、登場人物たちの特殊で繊細な心の動きを描いている。

 

それゆえに、現実で会っても友達になれる気が全くしない登場人物たちを励ましたり、ちょっとしたツッコミを入れたくなったりするのかもしれない。

 

では次回。