187.怪笑小説/東野圭吾
タヌキが飛んだ。彼はそう思った。キューちゃんがタヌキ以外の何かである可能性については全く考えなかった。(p.113)
どことなく怪しい雰囲気を醸し出しながら、滑稽にも思える人々の行動をつぶさに描き出した、東野圭吾の短編小説。
UFOの正体は超能力を扱うたぬきだと信じる男。
芸能人の追っかけにのめり込んでしまった、年金暮らしの老女。
無人島に流れ着いた人々の娯楽として、昔の相撲実況を再現する元アナウンサー。
皮肉めいたテーマの中で踊らされる登場人物たちを滑稽に描き出すと同時に、有名小説のオマージュや現代風刺に思える描写など、ところどころに毒を忍ばせた物語は、読者を不思議な読後感へと誘っている。
特に好きだったのは「逆転同窓会」と「しかばね台分譲住宅」で、どちらも傍目で見ていると滑稽極まりないのだけど、物語の着地の仕方によって謎の満足感が残った。
また、東野さんは現実のどこかに居そうな人々の性格や行動をキャラに落とし込むのがとても上手だと改めて感じた。
実際、読んでいる人が登場人物たちのことを客観的に嘲笑っているように、自身も登場人物たちのように周りから見られていることもあるのかもしれない。
では次回。