カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「君のクイズ/小川哲」の感想と紹介

189.君のクイズ/小川哲

 

クイズに答えているとき、自分という金網を使って、世界をすくいあげているような気分になることがある。僕たちが生きるということは、金網を大きく、目を細かくしていくことだ。(p.44)

 

クイズ番組の決勝で1文字も問題が読まれないうちに正解を言い放った対戦相手の不可解な優勝劇に対して、主人公は彼の人生を紐解きながら事の真相を解明しようとする、小川哲の長編小説。

 

QuizKnockが好きで良く動画を見ていたので、コンマ1秒の世界で戦っているクイズプレイヤーの凄まじさについては承知の上で読み進めることができた。あの世界には本当に化け物しかいないから。

 

クイズ番組「Q -1グランプリ」の決勝に出場した主人公は、対戦相手である本庄絆と接戦の末、最後の一問を正解した方が勝ちという状況まで持ち込む。

 

しかし、最後の一問、出題者の声が聞こえる前に解答ボタンを押した本庄絆は、呆気に取られる周囲の人々を尻目に正解を言い放ち、瞬く間に優勝をかっ攫っていく。

 

この前代未聞の事態に参加者や視聴者たちは不正があったのではないかと訝しみ、クイズ番組の制作者や本庄絆に対して説明を求めるが、結局、納得のいく説明がないまま真相は闇に葬られてしまう。

 

それでも主人公は、なぜ本庄絆が1文字も問題を聞かないで答えを叩き出したのかを知るために、彼の人生を調べ上げると同時にクイズ番組の決勝を振り返る。

 

真っ直ぐに向けられるクイズへの純粋な愛と、クイズの本質を解体しながら大きな謎に迫っていく感覚は、どんなエンターテイメントにも引けを取らないワクワク感をもたらしてくれた。

 

何よりも、謎を解き明かす過程で主人公の人生が回想され、今まで出逢った出来事が記憶となり、体験と紐づいた知識となって閃きへと生まれ変わる瞬間は、きっとクイズの世界でしか味わえない快感なんだろうと思わせられた展開だった。

 

では次回。