カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「ライオンのおやつ/小川糸」の感想と紹介

183.ライオンのおやつ/小川糸

 

ここには、ささやかな希望がたくさんちりばめられている。(p.75)

 

若くして余命わずかと告げられた女性が、瀬戸内に浮かぶ島のホスピスで過ごす最後の日々をあたたかに描きだし、2020年の本屋大賞2位を受賞した小川糸の長編小説。

 

主人公の雫は33歳という若さで人生に残された時間がもう残り少ないことを知らされ、最後の日々を「ライオンの家」と呼ばれるホスピスで過ごすことを決心する。

 

瀬戸内の海に浮かぶその場所は、過ごす人々の人生に残された日々を幸せな記憶で埋め尽くすために、館内の至る所に様々な希望が散りばめられていた。

 

そんな希望の一つとして、人生の最後に食べたいおやつをリクエストすることができることを知った主人公は、同じように余命を申告された居住者、そして犬の六花と触れ合いながら、過去の記憶を辿って人生最後のおやつを何にしようかと思い悩む。

 

物語の中で描かれる主人公の些細な言動からは、ささやかな喜びや悲しみの感情に振り回されながらも、心の隙間が少しずつ埋まっていくことに安心しているような、そんな目には見えない温かな幸せを感じ取ることができる。

 

そして、正反対の感情を行ったり来たりしながらも、美味しいものを食べること好きなものと触れ合うこと過去の記憶を胸に抱くことは、ずっと変わらず彼女に幸せを分け与えてくれていた。

 

最期の旅立ちを受け入れることと、諦めることの意味は違う。だからこそ、主人公が緩やかに死を受け入れながらも、最後まで生きることを諦めないでいたことは、読み終わった今でも、心の中に希望の明かりを灯してくれる。

 

個人的にプリンを逆さまにして食べたくなる気持ち、すごく分かる。
そっちの方が何倍も美味しそうに見えるから。

 

では次回。