191.方舟/夕木春夫
「愛する誰かを残して死ぬ人と、誰にも愛されないで死ぬ人と、どっちが不幸かは、他人が決めていいことじゃないよね」(p.197)
謎の地下建築に閉じ込められた9人の男女が、迫り来るタイムリミットの中で起こる殺人事件の犯人を突き止めようと先に驚愕の真実が待ち受ける、夕木春央の長編ミステリ。
これぞ、まさに一気読み。途中で止められる訳がなかった。
友人たちと共に山奥の地下建築を訪れた主人公たちは明け方、突如、起こった地震によって建物内に閉じ込められてしまう。
さらには、その場所は地下から流入し始めた水によって、七日後には水没する危険性があり、一人を犠牲にしなければこの場所から逃げ延びられないことが発覚する。
一行はどうにかして脱出するために建物内を散策していたが、その最中、友人の一人が首を絞められて殺されている姿が発見され、事態はより一層、混沌の一途を辿っていく。
この物語に漂うのは、真綿で首を絞められているかのようなじりじりと迫り来る不安と考えれば考えるほど闇に飲み込まれしまいそうになる袋小路の恐怖感。
何よりも、どこにも出口が見当たらない空間において、登場人物たちが陥る思考のどれもが妥当でリアリスティックに感じられるのが、より絶望感を際立たせていた。
また、カルネアデスの板を奪い合うような、心理的な駆け引きが巻き起こる空間が組み込られているにも関わらず、そんな展開が違和感なく起こりうる舞台が自然と設置されていることが素晴らしい。
自らが生き残るために誰かを犠牲にすることは罪になるのか。
その答えを探しながら、最後まで読み続けて欲しい。
では次回。