カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「消滅世界/村田沙耶香」の感想と紹介

281.消滅世界/村田沙耶香

 

あなたが信じている「正しい」世界だって、この世界へのグラデーションの「途中」だったんだと叫びたくなる(p.154)

 

人工授精で子供を産むことが定着した世界で、不変とも思えた恋愛・結婚・家族の形に翻弄される人々の姿が描かれる、村田沙耶香の長編小説。

 

夫婦間の性行為がタブー視されている世界で、両親が愛し合った末に生まれた雨音は、母親のことを“異常”だと断じて嫌悪していた。

 

夫以外の人やアニメのキャラクターと恋愛を重ねる日々を送るなかで、彼女は家庭に性愛を持ち込むことを嫌悪する朔と結婚する。

 

同じような結婚観を持つ夫と“正常”な日々を送っていたはずだったが、「エデン」と呼ばれる実験都市に移住したことで、2人の関係性は少しずつ歪んで、グラデーションのように雨音の心の形を変えていく。

 

想像もつかない世界の話なのに、なぜか今、生きている現実と断続的に接続されているような感覚になった。ディストピアの残像に現実の端っこが映りこんでくる。

 

どこかで未来の線路がスイッチされたならば、何か引き金となる出来事が起きたならば、いとも簡単にこんな世界に突入していくんだろう。そう思わせる説得力があった。

 

では次回。