カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「鏡の国/岡崎琢磨」の感想と紹介

236.鏡の国/岡崎琢磨

 

「いつかは失われるもの、いつかは失われるとわかっているものに、決して自分の一番の価値を置いてはいけないのです」(p.272)

 

大御所ミステリー作家の遺稿から削除されたエピソードをめぐって、小説のなかに描かれていた彼女の過去と本性が明らかになる、岡崎琢磨の長編ミステリ。

 

また、この作品は、小説のなかにまた異なる小説が入れ子になっている「作中作」と呼ばれる構造をとっている。

 

ミステリ作家として多数の功績を残していた室見響子が亡くなったことで、姪である桜庭には、彼女が残した遺作「鏡の国」著作権が相続されていた。

 

ノンフィクションの自伝的小説と銘うたれていた「鏡の国」だったが、室見響子の編集を担当してしていた人物から、この小説には削除された幻のエピソードがあるのではないかと告げられる。

 

とある女性の再会を契機に始まる「鏡の国」の物語から、現実との間にあるわずかな違和感を見つけるため、彼女は遺稿を読みほどいていく。

 

現代を2063年として、40年前のエピソードが作中に綴じられた小説内で語られるが、そのなかで描かれているのは、今、この時代で露わになりつつある心の病だった。

 

また、タイトルや装丁さえも謎を読みとく重要なキーパーツになっていて、作品を隅のすみまで楽しむことができる。

 

次々と波乱の展開を迎える「作中作」によって、反転してはまた反転する真実に、登場人物もろとも、ただ驚くことしかできなかった。

 

では次回。