235.水車小屋のネネ/津村記久子
「自分が元から持っているものはたぶん何もなくて、そうやって出会った人が分けてくれたいい部分で自分はたぶん生きてるって。」(p.438)
家庭の事情から家を飛びだした2人の姉妹は、お世話になる周りの人々の温かさと、水車小屋に住んでいたヨウムのネネに助けられながら過ごした40年の日々が綴られる、津村記久子の長編小説。
2024年の本屋大賞第2位に選ばれた本作。
本のいたるところに描かれている挿絵がかわいらしい。
高校を卒業したばかりの理佐は、両親との不和から、幼い小学生の妹・律を連れて、家から遠く離れた土地にあるそば屋で働きながら、生計を立てていくことになる。
18歳と8歳の少女たちは、先の見えない暮らしに不安を抱きつつも、そば屋を切り盛りする夫婦や近所の大人たちのお世話になりながら、少しづつ未来を見据えられるように心を整えていく。
そんな彼女たちを見守る存在として登場するのが、そば粉を挽くための石臼が設置されている水車小屋に住みこんでいる鳥、しゃべるヨウムのネネだった。
姉妹と多くの時間をともに過ごすことになるネネは、ラジオから流れる音楽を真似して歌い、言葉を覚えては2人と人間さながらの会話をする。そんなネネの挙動の一つひとつが、愛らしくてしょうがなかった。
お互いが少しずつ遠慮しながらも、周りの人々からの優しさを忘れることなく、2人は預かった恩をまた別の人へと受け渡していく。
やがて姉妹が歳を重ねて、時代が移り変わっても、彼女たちとネネの軽快なやりとりをずっと見ていたい。そんな温かな思いが胸に溢れる一冊だった。
では次回。