カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「クライマーズ・ハイ/横山秀夫」の感想と紹介

103.クライマーズ・ハイ/横山秀夫

 

クライマーズ・ハイ (文春文庫)

クライマーズ・ハイ (文春文庫)

 

1985年に起きた未曽有の航空機墜落事故の裏側で、錯綜する情報と報道の意義に揺さぶられながらも、報道現場に立ち続ける新聞記者である主人公の葛藤とその一部始終を描いた、横山秀夫の長編小説。

 

地元紙で遊軍記者の立場にあった悠木は、同僚から誘われた山登りの誘いをきっかけに、山を登る行為に没頭し始める。

 

そして、魔の山と呼ばれる谷川岳に挑戦しようと予定していた日。彼のもとに飛び込んできたのは、単独機の事故としては世界最大の被害を出した日航機の墜落事故の一報と、共に山に登るはずだった同僚が倒れて病院に運ばれた知らせだった。

 

事故の全権デスクを任された主人公は、目まぐるしく状況が変化する事故現場社の上層部の派閥争い、そして倒れた友が残した謎の言葉に翻弄される。

 

この作品を通して、事故発生から収束までの緊迫した報道現場の一部始終、その一瞬一瞬に至るまで主人公の言動や内に秘める心情がどこまでもリアルに描かれていた。

 

決して主人公が全権デスクとしてうまく立ち回っているかと言うとそうではない。上司との折衝や部下の統率に至るまで、あらゆる事象に対応しながら事故に関する報道を選択していく。正解のない二択を何度も迫られる。

 

主人公の葛藤と悲哀に満ちた感情が、この小説を読んでる間ずっと自分の中を駆け巡っていた。彼の立場を思うだけでも、胃に穴が開きそうになる。

 

ちなみにタイトルのクライマーズ・ハイと言うのは、登山中に極限状態に晒されることで恐怖感が麻痺してしまう現象のこと。自分はそんな状況に陥った時、正常な判断が下せるだろうか。

 

では次回。