198.名探偵のままでいて/小西マサテル
紡げば、すべてが物語。
世の中で起こるすべての出来事は、物語。
”作りごと”だから美しい。(p.254)
認知症を患っている祖父は、お見舞いにやってくる孫娘が持ち込む謎に対して、物語を紡ぐように鮮やかに解き明かしていく、小西マサテルの長編ミステリ。
主人公の祖父は、かつて小学校の校長先生として多くの生徒から愛される存在だった。
しかし、ある日、子どもたちの名前を誰一人として忘れずに覚えているほど聡明だった祖父が、レビー小体型認知症だと告げられる。
レビー小体型認知症とは、認知症の中でも10%ほどの割合を占める症状であり、その特徴として挙げられるのが、はっきりとした幻視が見えること。
見えないはずの物が視界の中を蠢く。
それは認知症を患う者にしか見えない幻。
そんな認知症を患う祖父へ、一抹の不安と僅かな希望を込めて孫娘から贈られる物語は、どれも結末の分からない謎を孕んでいる。
プールの授業中に消えてしまった先生。殺人を目撃したはずなのに、名乗り出て来ない幻の女。教室の児童たちを騒がせる幽霊騒動。
数多の謎に対して、祖父はレビー小体が脳に広がっているはずの脳細胞で、まるで物語の続きが目の前に広がっているかのように解き明かしていく。
タイトルにも込められた祖父に対する想いと、孫娘に物語を紡ぎながら、許されたそのかけがえのない時間を大切に過ごす祖父の関係性はどこまでも尊いものだった。
交わす言葉も紡がれた物語も、きっといつまでも忘れずに心にしまって、ふとした時に思い出す。そんな光景が頭に浮かぶようだった。
では次回。