カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「君が夏を走らせる/瀬尾まいこ」の感想と紹介

245.君が夏を走らせる/瀬尾まいこ

 

恋なんてふんわりしたものとは違う、もっと体の奥から湧き出てくる力強い気持ち。今まで知らなかったそんな気持ちが、俺の心を弾ませ揺すぶり動かしている。(p.156)

 

ちゃんと高校にも行かずにふらふらと過ごしていた金髪の少年と、先輩から託された2歳の赤ちゃんとのひと夏の子育て奮闘を描いた、瀬尾まいこさんの長編小説。

 

夏に読もうと思って、ずっと取っておいた作品。同著者の『あと少し、もう少し』のスピンオフとなっていることに読む前に気づき、思わぬ形で主人公が誰なのかを知った。ちょっと感慨深い。

 

夢中になれることもなく、何となくで日々をやり過ごしていた16歳の少年は、ある日かつての先輩から1ヶ月ほど、もうすぐで2歳になる赤ちゃんのお世話をしてくれないかと頼まれる。

 

子育てをしたことのない自分から見ても、自由奔放な赤ちゃんに翻弄されっぱなしの主人公の少年は、危なっかしくて、抱えこみすぎで、あれこれと手一杯で。

 

ただ、それでも自分なりにできることを考えて、一生懸命に子育てと向き合っているように見えた。

 

短い日々のなか、ほんの少し違う姿を見せるだけで、心がほかほかとして自然と笑みが溢れてしまう。

 

少年のひとつひとつの言動に込められた気遣いや優しさが、文章の節々から伝わってきて、二人のたどたどしいやりとりが何よりも愛おしいと思えた。

 

たとえ、2歳のころの記憶が忘れられてしまうものだとしても、彼が小さな子どもと駆けぬけたひと夏の時間は、これから先の人生を燦然と照らしてくれるはず。

 

では次回。