カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「忘れられた巨人/カズオ・イシグロ」の感想と紹介

248.忘れられた巨人/カズオ・イシグロ

 

それに、おまえへの想いは、わたしの心の中にちゃんとある。何を思い出そうと、何を忘れようと、それだけはいつもちゃんとある。(p.74)

 

古のグレートブリテン島で仲睦まじく過ごす老夫婦は、忘れてしまった息子に会うため旅に出る、カズオ・イシグロの長編ファンタジー

 

知り合いのカナダ人の男性から勧められた作品。
カズオ・イシグロさんの物語を読むのは初めてだった。

 

遠い昔、アーサー王なき後のブリテンを舞台に、おぼろげな記憶とともに生きる老夫婦は、かつてともに暮らしていた息子の存在を思い出す。

 

その後、離れた地で密やかに生きているはずの息子に会うため、ふたりは一世一代の旅に出ることを決意して、かすかな記憶を頼りに大平原を進んでいく。

 

鬼に襲われた少年。それを助けた若き剣士。竜退治を使命にする老騎士。

 

静かに時を刻みながら進んでいく物語は、どこか不自然な描写を映しだしながら、彼らの旅路を静謐に描いていく。

 

やがて、忘却の正体が明らかになると、互いを慮りながら歩いてきた老夫婦は、この国に隠された真実を目の当たりにする。

 

ブリテン人サクソン人、ふたつの人種がともに生きる世界で、静寂の水面に波紋が広がるように、少しずつ記憶が押し戻されていくとき、人は愛や勇気を無くさずにもっていられるだろうか。

 

では次回。