カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「箱男/安部公房」の感想と紹介

246.箱男/安部公房

 

むろん箱から出るだけなら、なんでもない。なんでもないから、無理に出ようとしないだけのことである。ただ、出来ることなら、誰かに手を貸してほしいと思うのだ。(p.82)

 

段ボール箱を頭から被って街を徘徊する箱男の行動をめぐり、視点が目まぐるしく入れ替わりながら、その正体に迫っていく、安部公房の長編小説。

 

ずっと読みたい本リストに並んでいたのだけれど、今年になってまさかの実写映画化することが発表され、あらためて読んでみようと手にとった。

 

段ボール箱をすっぽりと頭から被り、平然と街を彷徨う「箱男」。
世間から切り離されて、制限と自由の狭間で動きまわる存在。

 

そんな箱男の視点から覗く世界が詳細に綴られた文章は、どこか読んでいて落ち着かないうえに、物事の捉え方がひどく捻れて、言い訳がましく感じられる。

 

さらに、艶かしい表現や気味の悪い質感を残す言葉たちは、本当に箱男の手によって書かれている日記なのではないかと思わされる説得力があった。

 

見る側と見られる側が一瞬にして反転してしまう世界は、当たり前のようにインターネットとSNSに塗れた現代だからこそ、既視感を感じる恐ろしさかもしれない。

 

では次回。