114.暗いところで待ち合わせ/乙一
家の中にある暗闇と、外で感じる暗闇とでは、種類が違う。(p.51-52)
駅のホームで起きたある事件をきっかけに始まった、盲目の少女と殺人犯として追われる男の奇妙な同棲生活を描いた、切なさの代名詞である乙一のホラーミステリ―。
表紙だけ見ると怖そうだけども、そこまでホラー要素はない。
三年前に交通事故によって視力をなくした女性ミチルは、静かに独りアパートにて暮らしていた。
するとある日、自分一人しか住んでいなはずの部屋の中に他の人間の気配を感じるようになる。
それもそのはずでミチルの部屋には、近頃駅で起きた殺人事件の犯人として警察に追われていた男性アキヒロがひそかに身を隠していたのだった。
最初は見知らぬ人の気配に怯えるミチルだったが、身を守るため知らないふりをしているうちに、次第に同じ部屋で過ごす彼が悪い人ではないのかもしれないと思い始める。
そんな奇妙な同棲生活が進むにつれて、外の世界を拒絶するミチルの心情の変化やアキヒロが他人の部屋に潜むに至った理由が少しづつ解きほぐされ、事件の真相を交えて丁寧に描かれていく。
個人的には、序盤のそれぞれが部屋での立ち振る舞いを決めかねている、変に気まずくて緊張感のある共同生活の場面が好きだった。
一見すれば殺人犯と思しき人物と暮らすか弱い女性という構図のはずなのに、お互いの心情の揺れ動きが丁寧に描かれていることもあって、どこか和やかな気持ちにさせられる不思議な作品。
何よりこんなにも奇抜な設定であるのに、ここまで繊細な人間関係を映し出す物語に仕立てあげる乙一さんの発想力が凄まじい。誰も思いつかない。
では次回。