カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「ムーンナイト・ダイバー/天堂荒太」の感想と紹介

137.ムーンナイト・ダイバー/天堂荒太

 

だから、知っている。身のすくむ恐怖も、身が引き裂かれんばかりの悲しみも、煮えくり返るような怒りも、闇雲に叫びたくなる想いも、叫びがどこにも届かないことのむなしさも。(p.29)

 

月が昇る夜、震災から四年半が経った地の海に潜り、被災者たちの慰留品を持ち帰る主人公は残された者として答えを探し続ける、天童荒太の長編小説。

 

ずっと読みたかった天童荒太さん。
色々迷った結果、この本を選んだ。

 

主人公の舟作は立ち入りを禁止された被災地の海に何度も潜る。大切な家族や恋人を亡くした遺族にとって、かけがえないのない思い出を拾うために、自らも両親と兄を亡くした海に潜り続ける。

 

海の底に沈んだ街の一部。壊れかけの家屋や車。
誰かが使っていたはずの品物たち。

 

今も海に沈んだままのそれらを目の当たりにすることが、これからも続くはずだった幸せや大切なものを失ったという事実と対峙することが、どれほどの事なのか。
読んだだけの自分には、彼らの想いを想像することしかできない。

 

今もどこかで、何かを諦めている人がいる。
未だに答えが見つからずに心を痛めている人がいる。

 

主人公が最後に受け入れた答えを、もし自分だったら本当に受け入れることができるのだろうか。現実と創作の境目を超えて、現在の目線から考えさせられる。

 

今から十年前、あの震災が起こった時、自分は15歳だった。
テレビの向こう側で起こる出来事に、ただただ呆然としていた。

 

それから十年が経って、この本を読んで、改めて向き合いたいと思った。
忘れないでいること、そして現状を知ることは今からでもできることだから。

 

では次回。