220.透明な夜の香り/千早茜
「香りは脳の海馬に直接届いて、永遠に記憶されるから」(p.55)
古い洋館で家事手伝いをすることになった主人公は、その場所で客の望む香りを自在に作りだす調香師として働く男性と出会い、魅惑の香りによって閉じこめていた記憶を思い起こしていく、千早茜の長編小説。
書店員を辞めて新しく働ける場所を探していた主人公の女性は、家事手伝いのアルバイトを始めるために、森に隠れた古い洋館を訪れる。
そこには、どんな香りでも意のままに作り出すことのできる、調香師と呼ばれる仕事を生業とする、灰色がかった目の男性が住んでいた。
庭で育てた香料植物や薬用植物を使って、いとも簡単に魅惑の香りを操る彼のもとには、形のない幻想とも呼べる代物を追い求める人々から、風変わりな依頼が続々と届けられる。
調香師としての仕事を何度も目のあたりにして、彼が抱える深い孤独に触れた主人公は、やがて心の奥底に閉じこめていたある記憶について思いをめぐらせる。
現実に存在する香りは記憶と対になって人々の心に棲みついて、良くも悪くも忘れることのできない幻想を植えつけていく。
透明な夜の香りを想像してみるけど、おぼろげで掴めないままだった。
調香師ならば、作りだすことができるのだろうか。
では次回。