217.不可逆少年/五十嵐律人
「やり直せるから、少年なんだよ」(p.23)
幼い少女が起こした重大な事件が発端となり、登場人物たちが抱えてきた過去の傷が新たな事件を巻き起こしていく、五十嵐律人の長編ミステリ。
狐の面をした少女が監禁した大人たちを次々と殺害する様子を生放送で配信するという、前代未聞の事件から物語は始まる。
そして、何よりも世間を騒がせたのは、犯人が刑事責任を問われない13歳の少女であることだった。
家庭裁判所調査官の主人公は、とあるきっかけから、やがて「フォックス事件」と呼ばれるその事件に関わることになり、被害者遺族たちが引きおこす負の連鎖に巻き込まれていく。
少年法の理念を支える「可塑性」という言葉。
この物語では、そんな「可塑性」に真っ向から抗う存在が描かれている。
不可逆少年と名づけられた少女を理解しようと思えば思うほど、現実で起きている出来事との乖離に苦しむ主人公の姿を見て、自らも信念を問いただされている気にさせられた。
不幸に慣れすぎた少年少女たちは、誰からも声をかけられることなく次第に道を逸れ、踏みはずしたことにも気づかないまま、取り返しのつかない場所にまで歩みを進めてしまう。
そんな彼らの行く末を、手元の灯りでぼんやりとでも照らすことで、拓ける未来があるのだとしたら、その可能性を少しでも信じたくなった。
では次回。