88.そして、バトンは渡された/瀬尾まいこ
「そう、自分の明日と、自分よりたくさんの可能性と未来を含んだ明日が、やってくるんだって。親になるって、未来が二倍以上になることだよって」(p.315)
様々な理由から親が何回も入れ替わり、学年の節目には住む環境ががらりと変化する日々を送った主人公が伴侶を持つまでを綴った、瀬尾まいこの長編小説。
2018年の本屋大賞受賞作。
88冊目の末広がり感にもぴったりな幸せな気持ちになれる本。
高校生になった主人公の優子は、血の繋がらない父親”森宮さん”と二人で暮らす。
さらに、それまでに父親が三回、母親が二回変わっている。
そんな普通の人とは異なる境遇においても、優子はいつも強かで凛としていて、自分が不幸だとは微塵も感じていない。教師に問われても逆に困ってしまうぐらい困っていない。
なぜなら、優子は押し付けれたわけではないから。
まさにバトンのように、みんなが愛情を注いで、受け渡されていった存在だった。
実の親に加えて、自由奔放で我が道を進んでいく梨花さん、懐深く皆を見守っていた泉ヶ原さん、そして毎回料理は自分の独壇場とばかりに優子に食べさせたいものを作る森宮さん。それぞれに違った愛情の形があった。
個人的には森宮さんがとてもお気に入り。
もちろん変な人なのだけど、どこか人間臭くて、夜ご飯での優子とのほのぼのとした会話には、読んでいるこっちもほかほかと幸せな気持ちになった。
きっと誰かの親になった後にこの本を読むと
また違った気持ちになるんだろう。
そして、文庫版の上白石萌音さんの解説も良かった。
この文章よりも断然良い。人柄がにじみ出ている。
では次回。