カタコトニツイテ

ゆる~い本の感想と紹介をしています。想うこともつらつらと。

「ザリガニの鳴くところ/ディーリア・オーエンズ」の感想と紹介

126.ザリガニの鳴くところ/ディーリア・オーエンズ

 

けれど、命の時計の針が動きつづけている限り、そこには醜いものなど何ひとつないように思えた。(p.255)

 

とある村で起こった殺人事件の捜査と、湿地の奥に一人で住む少女の生涯が並行して語られる、ディーリア・オーエンズの長編小説。

 

2021年の翻訳小説部門本屋大賞を受賞した作品。
さらに、著者の69歳でのデビュー作でもある。

 

まだ貧富の格差や有色人種への差別が蔓延る1960年代、ノースカロライナ州の湿地でとある男の遺体が発見される。

 

村の人々は、村の奥地にある沼地近くの古屋に住む「湿地の少女」を疑い、警察も彼女の動向を探り始める。

 

この作品では、ひっそりとたたずむ広大な湿地でたった一人健気に暮らす少女の生涯が、彼女のその時々の感情の揺れ動きとともに鮮やかに描かれる。

 

未開の土地である湿地という環境下でありながら、この物語から溢れ出るのは一人の少女が抱く孤独に対する抵抗、生き物が本来持つ危うさ、そして、人を恋しいと思う感情だった。

 

次々と彼女のもとを去って行く家族、過酷な自然環境、村の人間たちの偏見の目。
そんな理不尽な状況にも関わらず、たった10歳の少女は自然の中で生きる術を探し、一人きりの孤独に負けないように、必死に堪えながら湿地で生きていく。

 

彼女が成長し、様々な生き物との交流を通して湧き出る感情に戸惑いながらも、懸命に信じられる者たちや自然とともに共生する姿には、物語の終盤へ向かうほど胸が締め付けられるような気持ちになる。

 

それでも、彼女が育った湿地を取り巻く生き物や環境が、最後の最後まで彼女を見守るように寄り添っているように思えたのが何よりもの救いだった。

 

また、著者のオーエンズさんは動物行動学の博士号も持っているため、自然描写や生き物の特性などが事細かに描かれているのも印象的だった。

 

訪れたことのない湿地に身を潜めて登場人物たちを見ているような、そんな気分。

 

では次回。