206.向日葵を手折る/彩坂美月
大切な人を前触れもなく失うのと、大切な人がいなくなるかもしれないという恐怖に怯え続けるのとでは、どちらがより辛いだろう?(p.179)
山形の集落で起こる不穏な事件の数々に少年少女たちは戸惑い傷つきながらも、互いを思い合って成長していく、彩坂美月の青春ミステリ。
父親の死を契機に、母方の実家がある山形の村に引っ越してきた小学六年生の少女は、村に住む子どもたちとの距離感に戸惑いつつも、徐々に心を通わせていく。
しかし、そんな主人公たちが通う学校で、夏祭りと併せて行われる行事である「向日葵流し」に使うはずの向日葵が何者かによって全て切り落とされる事件を皮切りに、不可解な出来事が続々と彼らの身の周りで起こり始める。
全ての真相を知った時、不穏な空気が村に漂う中でも、子どもたちが時にぶつかり、時にすれ違いながらも、ひたむきに進んでいく姿が面映くも思い起こされて、胸が抉られるようだった。
また、この作品では、幾重にも重なった優しさやずるさ、素直さや偏屈さ、そんな複雑でいて人を形作る何層もの人格が彩坂さんの手によって成長期の子どもたちに投影され、愛おしいほど丁寧に描かれている。
さらに、山形の村の片隅に潜んでいた光と影は、少年少女たちの心にも色濃く映し出されているようで、自然と季節が移り変わっていくように、彼らの人間関係にグラデーションをつけていくようだった。
山形の豊かな自然の中で、人知れず子どもから大人へと変わっていく。
茹だるような暑さの中で、そんな彼らの行く末を見届けて欲しい。
では次回。