どんなに形の違う小石でも、一緒にポケットに入れておくうち、不思議と馴染んでくるものだとよく知っていたからだ(p.35)
小鳥の言葉を理解する兄と、ただ一人兄の言葉を理解する弟、2人の兄弟の慎ましくも儚い一生を描いた、小川洋子の長編小説。
人の言葉を話すことができない兄は、鳥のさえずりと呼応するように会話をすることができた。そして、そんな兄の言葉を理解することができたのは、弟ただ一人だった。
誰にも理解されない言葉を不自由に思うことなく、小鳥たちと戯れながら生活する兄を、弟はひっそりと支えながらともに暮らしていく。
やがて、兄は亡くなり、弟は園の鳥の世話をするうちに周りの人々から「小鳥の小父さん」と呼ばれるようになる。
時の流れが加速するにつれて、浮き彫りになっていく孤独感、人とのつながりを無意識に求める姿と、そんな彼に寄り添う小鳥たちの関係性が印象深く刻まれた。
小川洋子さんは寂しさに何通りもの姿があることを知っていて、文章を通して端正にその形を描きわけることができる。
そして、そんな特別な寂しさであっても、同じような言葉で一括りにされてしまうことに、また寂しさを覚えてしまった。
では次回。