カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「クジラアタマの王様/伊坂幸太郎」の感想と紹介

225クジラアタマの王様/伊坂幸太郎

 

音も聞こえず、広く、美しい青空が見えるだけであるから、本当にやってくるのだろうか、と不安になるほどだが、もちろんそれは、恐怖から目を逸らしたいからでもあった。(p.58)

 

製菓会社で働く主人公のもとに降りかかる様々なトラブルは、やがて思いも寄らない繋がりをもたらす、伊坂幸太郎の長編小説。

 

お菓子を作る製菓会社で広報として働いている主人公は、異動して現場を離れたのも束の間、商品への異物混入トラブルにが起きたことによって、事後処理の対応を任されてしまう。

 

顔の見えない人々から悪意や非難をぶつけられる日々に、心も体も疲れ果てていた主人公たちだったが、人気ダンスグループのメンバーと、とある議員の登場によって劣勢だった状況が一変する。

 

ただのいち会社員にすぎない主人公と有名人たちを繋げたのは、小説の幕間に登場するイラストによって紡がれる、現実とはかけ離れた夢の世界の出来事だった。

 

物語を読み進めていると、夢と現実が表裏一体となって、どちらを根拠にして自身を保てばいいのか分からなくなっていく。

 

それでも、見分けのつかなくなった夢と現実を分かつのは、目の前の残像にがむしゃらにでもしがみつこうとする反骨心なのかもしれないと思わされた。

 

また、令和元年に発刊された作品ながら、ここ数年の慌ただしい世界を予言するかのような内容で、このタイミングで読めたことは逆に良かったような気がする。

 

それにしても、伊坂作品に登場するご婦人がたは、誰もかれも頼もしくて逞しいな。

 

では次回。