カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「砂漠/伊坂幸太郎」の感想と紹介

119.砂漠/伊坂幸太郎

 

「その気になればね、砂漠に雪を降らすことだって、余裕でできるんですよ」(p.18)

 

入学してすぐの新歓で出会った5人の男女は、限られたモラトリアムである大学生活の中で何気ない日々とちょっとした騒動を繰り広げる、伊坂幸太郎の青春小説。

始めて読んだのは高校生の時。あの頃は、本気で大学生活とは「こういうものなのか」と夢見ていた。結局、麻雀あんまりやらなかったけど。

大学生活が始まったのも束の間、新歓の場にいた5人の男女は、苗字の意外な共通点から麻雀をするために集められる。

周りを冷静に俯瞰して見る北村、世界を平和にするために麻雀の平和という役を目指し続ける西嶋、絶世の美女である東堂、大人しいながら超能力を使うことができる
そして、適当だけども皆を引っ張る鳥井

何の繋がりもなかったはずの5人の大学生はボウリングや合コンなど大学生ならではの遊びに参加したと思えば、斜め上をいく一悶着を巻き起こす。

それでも、いざこざを経ながら絆を深め合う彼らは、無為に過ぎていくはずだった大学生活を共有していく。もちろん、物語の合間にワンクッションのように挟まる麻雀も忘れない。

とにかく西嶋のキャラが魅力的だった。恥ずかしげもなく砂漠に雪を降らせることが出来ると堂々と宣言する彼は、現実に存在してそうでどこにもいない唯一無二。

この物語は永遠に続いていくものではなく、卒業して社会という名の砂漠に放り出されるまでの、ほんの少しの空白の時間を切り取って描かれる。

作中で「学生時代を思い出して懐かしがってもいいが、あの頃に戻りたいと考えてはいけない」という様なセリフがある。

でも、だからこそ、この物語を読むと一層、友達と暇を持て余しては当てもなく過ごした時間の一瞬一瞬が愛おしくなる。

もしかしたら、大学で出会った友人たちとも
いつかは疎遠になってしまうのかもしれない。

なんてことはまるでない、はず。

 

では次回。