カタコトニツイテ

頭のカタスミにあるコトバについて。ゆる~い本の感想と紹介をしています。

「透明カメレオン/道尾秀介」の感想と紹介

90.透明カメレオン/道尾秀介

 

たとえ目に見えない透明な世界だったとしても、本気で願えば、人はそれに触れることができる。(p.429) 

 

透明カメレオン (角川文庫)

透明カメレオン (角川文庫)

 

バーに集まる仲間たちとの出来事を作り替えて、ラジオで話す主人公はある日、バーを訪れた女との出会いをきっかけに、ある秘密の計画に巻き込まれていく、道尾秀介の長編小説。

 

いつものように常連が集まるバー「if」では、ラジオパーソナリティである主人公を始め、個性豊かなメンバーが他愛のない話を繰り広げていた。

 

大雨の夜、その場にやってきた少女との出会いが、バーの仲間を巻き込んで起こる、怪しい計画へと導いていくことになるとは知らずに。

 

この物語では、ラジオパーソナリティである主人公が仕事でやっているラジオ番組が、章の幕間に小休止のように挟み込まれて放送されている。

 
彼はラジオで
バーでの何でもない出来事を、面白おかしくリスナーに届ける。
本当に起きた出来事とは異なる、噓の話に作り替えて放送する。

 

その他にも、この物語には多くの嘘が紛れ込んでいる。
人を騙すための嘘、自分を納得させるための嘘。
そして誰かのためを想う、優しい嘘。

 

すべてが同じ「嘘」には違いないのに、読み終わったあとは登場人物たちの言葉が全く別の温かさをもって伝わってきた。

 

ちょっとしたボタンの掛け違いが、何の気なしに選んだ選択が、思い描いていた未来を変えてしまう。

 

「あの時、ああしていれば良かった。」
誰もが思う感情に対しての、主人公のアンサーがとても胸に響く。

 

個人的にはタイトルの意味を知った時に、ふと涙腺が緩んでしまった。
目に見えないものでも、確かに実在しているんだ。

 

では次回。