212.世界でいちばん透きとおった物語/杉井光
「燈真さんは、言葉で心臓を刺せる人ですね」(p.105)
大御所ミステリ作家が遺した未発表の小説のありかを、彼の息子である主人公が唯一の手がかりであるタイトル名をもとに見つけ出そうとする、杉井光の長編小説。
まず、この構想をカタチにしたことに対して拍手を送りたい。
そもそも思いつかないし、思いついたとしても実現できる気がしない。
有名なベストセラー作家として、数多くのミステリ小説を世に送りだした宮内彰吾が死去した。
そんな彼が過去におかした不倫の末に生まれた息子である主人公のもとに、本妻の長男である人物から、宮内彰吾が遺したと思われる未発表小説の原稿探しの依頼が届く。
手がかりとなるのは『世界でいちばん透きとおった物語』というタイトルのみ。
主人公は宮内彰吾がかつて関係をもった女性たちの話を聞きながら捜索を続けるが、その果てに辿りついたのは、あまりにも突拍子のない真実だった。
衝撃のラストに意識が持っていかれそうになるが、真実が明らかになるまでの主人公の葛藤や、自らの境遇に向き合って搾りだした言葉が繊細な文章で綴られている。
タイトルの名に違わない、世界でいちばん透きとおった物語。読みおわったあとは、もう一度、初めからページをめくって、その美しさを体感してほしい。
では次回。