221.ノウイットオール あなただけが知っている/森バジル
「この世界のこと一切もれなくぜーんぶ知るまでは、誰に何言ったって知ったかぶりだよ」(p.140)
とある街を舞台に異なる5つの世界で起こる物語が綴られるなかで、重なりあった出来事がやがて思わぬ結末を引きおこす、森バジルの短編小説。
ここまで舞台設定に惹かれるあらすじがあるだろうか。
とてつもないワクワク感で読み進めた。
ミステリ、ファンタジー、SF、青春、恋愛。
様々な小説のジャンルが一同に会する舞台となるのは
どこにでもある普通の街「切縞市」。
そこでは、M-1グランプリを目指して漫才の練習に明け暮れる高校生、暴力団を相手どり高額な依頼料を突きつける女性探偵、はたまた異なる世界から街に迷いこんだ異世界人たちなど、とうてい人生で交わるはずのない人々がそれぞれの物語を歩んでいた。
しかし、全く異なるジャンルからなる5つの物語は、それぞれの世界と交わりきらずとも少しづつ重なりあうことで、思いがけない奇跡を起こす。
角度を変えると景色が一変する物語は、くるくると回転して色鮮やかな世界を映しだす万華鏡のようだった。
覗いてみて夢中になってしまったのが「青春小説」のパート。
熱量を保ったまま、信じられないスピードで青春が過ぎさっていく
全ての真相を知っているのは読者だけ。
空から街を見下ろしながら、最後のページをめくってみてほしい。
では次回。