93.ユージニア/恩田陸
新しい季節は、いつだって雨が連れてくる。(p.10)
様々な関係者への聞き込みをもとに、数十年前に起きた名家の大量毒殺事件の真実を紐解いていく、恩田陸の長編ミステリー。
素敵な書き出しで知ったこの作品。
読み始める入口は表紙やあらすじだけではないのだ。
何十年も前にとある名家で起きた無差別大量毒殺事件。
容疑者とされていた男は自殺し、多くの謎が残された。
この物語は毒殺事件の生き残りを含めた複数の関係者へのインタビュー形式で展開される。
そして彼らの証言の節々で登場する当時見逃されていた不可解の点が、事件の真実を徐々に明るみにしていく。
いわゆる主人公的な立ち位置となる人物がおらず、間接的に事件に関わっていた人物たちの語りによって、少しづつ異なる角度から語られる証言が今まで死角となっていた部分を照らしていくのが斬新だった。
物体が大きすぎるがゆえに、見る角度によって捉え方は変わるし、見る人間によっても感じ方は不揃いで微妙にずれが生じる。まるでだまし絵みたいに。
それにしても、最後まで不思議でミステリアスな雰囲気が漂っていた作品だった。
霧の中を闇雲に進んでいたら、いつの間にかゴール地点に立っていたみたいな。
そんな感じ。
では次回。