92.プシュケの涙/柴村仁
翅を片方失った蝶は
地に落ちるしかない
涙を流す理由もない私は
失った半身を求めて彷徨うだけ
自殺した少女の謎を解き明かす、柴村仁の青春ミステリー。
この物語は前編と後編に分かれていて
主人公も視点も異なる二部構成となっている。
前編では受験に追われる主人公の榎戸川と校内で変人と言われる由良が、夏休みに学校で自殺した少女の謎を探るため動き出す。
時には由良の不可解な行動に惑わされながらも、彼らは生徒に聞き込みしたり、自殺した少女の行動を探ることで真実に近づいていく。
ここまでは至って普通のミステリー。
この物語がかけがえのないものになる理由は、後編にこそある。
後編では、前編と打って変わって時系列が巻き戻り
とある少女の視点でストーリーが展開される。
決して順風満帆とは言えない学校生活を送る彼女は、美術部の勧誘にきた謎の少年との出会いをきっかけに、少しづつ彼に心を開いていく。
彼女がどのようにして学校生活を過ごしていたのか。
どのようなことを考えて生きていたのか。
そんな前編では知ることが出来なかった彼女の想いが明かされ、最後には幸せな未来が待ち受けているかのように見える。
しかし、この二つの物語の時系列をあまつさえ逆にすることで、より後編の物語が優しく儚げに感じられ、結末に対してやり切れない想いを抱くことになる。
きっと前後編の順番が逆だったなら、ここまで心にくるものは無かっただろう。
この構成だからこそ、残酷でいて、尚且つ一層の切なさが生まれる。
最後に表紙をもう一度見ると、どこまでもやるせない気持ちになってしまう。
ぜひ、読むときはメディアワークス文庫版で。
では次回。